「対話型のリーダー」が理想とされる今、多くの管理職が“部下を育てられない”という壁に直面しています。
なぜ「話を聞いているのに伝わらない」のか。
その背景には、現代の職場環境の変化と、上司自身の“思い込み”があります。
この記事では、育成に悩む上司が陥りやすい特徴と、対話だけでは育たない理由、そして任せて育てるためのヒントを具体例とともにお伝えします。
なぜ部下を育てられない上司が増えているの
「部下を育てるのが難しい」と感じる上司が増えています。
2025年の日経クロスウーマンの調査では、以下の項目が現役管理職の悩みのトップ3に。
「部下のやる気を引き出せない」
「仕事を振れない」
「叱れない」
理想のリーダー像として最も多かったのは「対話型」。
実に84.6%の人が「話を聞いて共感し、動機づける上司」を求めていました。
しかし、現場では「話を聞いているつもりなのに、響かない」と悩む声も多数。
これは「聞くだけで育つ」という誤解が広がっている証拠かもしれません。
たとえばあるIT企業の課長(42歳・女性)は、「若手に細かく指示せず、自主性に任せたつもりだったけれど、結果的に動かず、自分で全部やる羽目になった」と語ります。
一方、部下側は「何を期待されているか分からず、不安だった」と答えていました。
こうしたすれ違いが続けば、信頼関係は築けません。
リーダーの「聞く力」だけではなく、期待や意図を伝える「軸」が必要な時代に変わってきているのです。
近年、「聞く力」の重要性が強調されるようになりました。
確かに、相手の話を受け止める姿勢は信頼の土台になります。
しかし、それだけでは部下の育成は進みません。
今の職場では「共感してもらえた」で終わることが多く、行動につながらないケースが増えています。
法政大学の坂爪洋美教授は、「聞く力に加え、伝える力が不可欠」と指摘します。
あうんの呼吸が通じにくくなった今、意図や価値観を言葉にして伝えることが求められています。
たとえば、ある製造業の管理職(43歳・女性)は、「威圧感を与えないよう気をつけすぎて、結局何を伝えたいのか分からないまま終わってしまう」と悩んでいました。
一方、部下からは「何を期待されているのかが分からない」との声も。
こうしたズレは、部下の自発的な行動を妨げます。
伝える内容が曖昧だと、かえって不安を与えるのです。
たとえば、「今後はもっと考えて動いてほしい」という言葉。
上司は応援のつもりでも、部下には「何をすればいいか曖昧」と映ることがあります。
伝え方にも工夫が必要です。
「この作業を任せたい。なぜなら、あなたの●●力を活かせると思うから」と
動機と期待を明確に伝えるだけで、部下の動きは変わります。
聞くだけでは相手は変わりません。
「自分の思いを、相手の心に届く言葉で伝える」
これが今、リーダーに求められる新しい力です。
育てられない上司に共通する3つの落とし穴
部下育成に悩む上司には、いくつかの共通点があります。
坂爪洋美教授は「よかれと思っての行動が、逆に育成の妨げになっているケースが多い」と指摘します。
以下に代表的な「3つの落とし穴」を紹介します。
① 自分でやったほうが早いと思ってしまう
優秀なプレーヤーだった上司ほど、部下に任せるより自分で処理しがちです。
特に業績プレッシャーの大きい現場では、「時間がないから自分でやる方が早い」と考える傾向があります。
ある旅行業の女性課長(45歳)は、「指示しても結局戻ってきて修正に追われる」と語り、手放すことに不安を抱えていました。
しかしこれでは、部下の経験の機会を奪い、いつまでたっても育ちません。
② 全員に配慮しすぎて一貫性がなくなる
対話型リーダーが陥りがちなのが「聞きすぎ」の罠。
全員の希望に応えようとすると、方針が揺れて一貫性を欠きます。
結果として、信頼を失い、部下は混乱します。
上司は「まずはこの方針でいく」と方向を示し、プロセスや方法は部下に委ねる形が理想です。
③ 失敗が許されない風土
部下に任せた結果、失敗すれば自分が責任を取る。
そう考える上司は、そもそも任せることに慎重になります。
特に残業時間が厳しく制限されている職場では、「失敗の余裕がない」ことが育成の障壁となります。
失敗を前提とした学びの設計と、上司同士の支援が欠かせません。
この3つの落とし穴は、誰もが無意識に陥る可能性があります。
だからこそ、自覚し、言語化して向き合うことが育成の第一歩になります。
H2-4:「任せて育てる」ために必要なこと
「任せる」と「放っておく」は違います。
真に人を育てるには、ただ仕事を振るだけでは不十分です。
任せたうえで、支援する仕組みと意図が必要です。
① 「なぜ任せるか」を伝える
任せる前に「なぜこの仕事を任せるのか」を明確に伝えましょう。
たとえばある建設会社では、30代の女性社員にプロジェクトリーダーを任せる際、上司が「あなたの調整力と段取り力に期待している」と伝えました。
この一言で「信頼されている」と感じた彼女は、自信を持って挑戦できたと言います。
② 進捗の共有と問いかけ
任せた後も、「進んでる?」「困ってることある?」と定期的に対話します。
一方的な確認ではなく、部下の考えを引き出す問いかけが効果的です。
あるIT企業の女性係長は、「課長が“どう進めた?”と聞いてくれるだけで、考える力がついた」と話しています。
これは任せた責任を放棄せず、育成の主導権を持ち続ける関わり方です。
③ 成長の道筋を描く
部下は「なぜこの仕事をやるのか」「どんな力がつくのか」が見えないと不安になります。
「この案件を経験すれば、次は〇〇の仕事に挑戦できる」といった、中長期の成長イメージを共有しましょう。
安心してチャレンジできる環境づくりが、任せて育てる鍵です。
まとめ:任せる力が未来をつくる
【文字数:517文字】
部下が育たない原因は、「任せる勇気がない」だけでなく、
「どう任せるか」「任せた後どう関わるか」に課題があることも多いのです。
任せるとは、手放すことではありません。
信じて、見守り、必要な時に手を差し伸べる――。
そうした関わり方が、部下の挑戦心や主体性を引き出します。
たとえば、失敗を恐れて部下の判断を待てなかった上司が、「やってみて」「どう感じた?」と問いかけるスタイルに変えただけで、チームの雰囲気と成果が大きく変わったという声もあります。
部下にとっての一歩は、上司の任せる力によって開かれます。
とくに女性部下においては、「丁寧な関心」や「言葉での信頼表明」が、思いのほか背中を押す力になるのです。
だからこそ、「任せたつもり」で終わらず、日々の対話と、成長の筋道をつくる視点を大切にしましょう。
未来をつくるのは、人を育てる力。
そして育てるためには、「任せる力」が欠かせません。
その第一歩を、今日から始めてみませんか?